【日経新聞報道】おひとり様の介護を甥・姪が担う時代──介護休業制度の対象外という盲点と50代・60代が今すぐ備えるべき4つの対策

【日経新聞報道】おひとり様の介護を甥・姪が担う時代──介護休業制度の対象外という盲点と50代・60代が今すぐ備えるべき4つの対策

1. おひとり様の介護、甥・姪が担う時代が到来

こんにちは。遺言相続専門の行政書士です。前職は高槻市役所の市民課で、戸籍届出や市営葬儀、市営墓地の受付対応をしてきました。

2026年1月13日、日本経済新聞に「おひとり様の介護、甥・姪も担う 休業制度の対象外など課題も」という記事が掲載されました。

【重要ポイント】
・未婚や離婚、死別などで子や配偶者がいない単身高齢者(おひとり様)が増加
・おひとり様が介護が必要になると、甥・姪が介護を担うケースが増加
・しかし甥・姪が介護しても、育児・介護休業法の対象外
・長期化すれば、介護する側の生活や仕事に深刻な影響

この記事は、50代・60代のおひとり様にとって、決して他人事ではない重要な問題を提起しています。


2. 介護休業制度の盲点──甥・姪は対象外という現実

介護休業制度とは?

介護休業制度は、育児・介護休業法に基づき、労働者が要介護状態の家族を介護するために休業できる制度です。

対象家族の範囲(育児・介護休業法):
・配偶者(事実婚を含む)
・父母(養父母を含む)
・子(養子を含む)
・配偶者の父母
・同居し、かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹、孫

甥・姪は対象外

ここで重要なのは、叔父・叔母と甥・姪の関係は、この対象家族に含まれていないということです。

つまり、甥や姪が仕事をしながらおひとり様の叔父・叔母を介護しようとしても、以下のような制度が利用できません:

  • 介護休業(最長93日)
  • 介護休暇(年5日)
  • 勤務時間短縮等の措置
  • 所定外労働の制限
  • 時間外労働の制限
  • 深夜業の制限

なぜこれが問題なのか?

介護が短期間で終われば問題ないかもしれません。しかし、介護が長期化すれば、甥・姪は以下のような困難に直面します:

  • 仕事を休めず、介護と仕事の両立に限界
  • 介護のために退職を余儀なくされる
  • 経済的負担が増大
  • 自身の家庭生活に支障
  • 精神的・肉体的疲労の蓄積

3. 市役所での経験から見えた「身寄りのない高齢者」の介護問題

私が高槻市役所の市民課で勤務していた時、身寄りのない高齢者の介護や死後の手続きで、遠い親戚が突然呼び出されて困惑しているケースを何度も目にしてきました。

実際にあったケース

ケース①:遠方の甥が突然呼び出された
80代のおひとり様が入院。病院から「身元引受人が必要」と連絡があり、30年以上会っていなかった遠方の甥が呼び出された。甥は仕事があり、頻繁に通うことができず、介護休業も取れないため、非常に困っていた。

ケース②:姪が介護のために退職
60代のおひとり様が認知症に。姪が介護を引き受けたが、介護休業制度が使えず、結局退職して介護に専念することに。姪自身の老後資金にも影響が出た。

ケース③:甥・姪が複数いて押し付け合いに
おひとり様の介護を誰が担うかで、複数の甥・姪の間で揉めるケースも。「私は仕事があるから無理」「私には子どもがいるから」と押し付け合いになり、結局誰も引き受けず、行政が対応することに。

これらのケースを見るたびに、「生前にきちんと準備しておけば防げたのに」と思わずにはいられませんでした。


4. 甥・姪に介護負担がかかるケースとは?

どんな時に甥・姪が介護を担うのか?

おひとり様が介護が必要になった時、以下のような順序で介護者が決まることが多いです:

①配偶者・子ども→いない(おひとり様のため)
②親・兄弟姉妹→既に高齢または他界
③甥・姪→消去法で選ばれる
④その他の親戚・友人→関係が薄い
⑤行政・専門機関→最終的な受け皿

つまり、甥・姪は「身寄りのないおひとり様」にとって、最も近い親族になる可能性が高いのです。

「甥・姪はいる」要介護者、今後も増加

日本経済新聞の記事によると、今後も「甥・姪はいる」要介護者は増加すると予測されています。

これは、以下の社会構造の変化によるものです:

  • 生涯未婚率の上昇
  • 離婚率の増加
  • 子どもを持たない選択をする人の増加
  • 平均寿命の延伸による高齢者人口の増加

5. 50代・60代おひとり様が今すぐ備えるべき4つの対策

それでは、50代・60代のおひとり様は、具体的にどのような準備をすればいいのでしょうか。遺言相続専門の行政書士として、4つの重要な対策をご紹介します。

対策①:任意後見契約を結ぶ

任意後見契約とは?
将来、認知症などで判断能力が低下した時に備えて、信頼できる人や専門家に財産管理や介護に関する契約を任せる制度です。

具体的な内容:

  • 銀行口座の管理
  • 医療・介護契約の締結
  • 施設入所の契約
  • 不動産の管理
  • 生活費の支払い

おひとり様にとってのメリット:

  • 甥・姪に負担をかけずに、専門家が財産管理してくれる
  • 自分が元気なうちに、信頼できる人を選べる
  • 判断能力が低下しても、自分の意思に沿った生活ができる

対策②:死後事務委任契約を結ぶ

死後事務委任契約とは?
死後の様々な手続きを、生前に専門家に依頼しておく契約です。

具体的な内容:

  • 葬儀・火葬の手配
  • 納骨・埋葬の手配
  • 役所への届出(死亡届・年金停止など)
  • 賃貸物件の解約・遺品整理
  • 公共料金の解約
  • SNSアカウントの削除
  • ペットの引き取り手配

おひとり様にとってのメリット:

  • 甥・姪に死後の手続き負担をかけない
  • 自分の希望通りの葬儀ができる
  • 遺品整理や賃貸解約などの面倒な手続きを任せられる

対策③:遺言書を作成する

遺言書の重要性
おひとり様にとって、遺言書は必須です。特に、お世話になる(なった)甥・姪に財産を遺贈したい場合は、遺言書がないと渡らない可能性があります。

法定相続の順位:

  • 第1順位:子
  • 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹(代襲相続で甥・姪)

おひとり様の場合、兄弟姉妹が健在なら兄弟姉妹が相続人に。兄弟姉妹が他界していれば、甥・姪が代襲相続します。

しかし、兄弟姉妹が健在で、甥・姪にお世話になった場合、遺言書がないと甥・姪には財産が渡りません。

遺言書でできること:

  • お世話になった甥・姪に遺贈する
  • 複数の甥・姪がいる場合、特にお世話になった人に多く遺贈する
  • 福祉団体やNPOに寄付する
  • 母校に寄付する

対策④:介護が必要になった時の希望を明確にしておく

エンディングノートの活用
法的効力はありませんが、以下のような希望を記録しておくことは非常に重要です:

  • 介護が必要になった時、施設入所を希望するのか、在宅介護を望むのか
  • 延命治療を希望するのか、しないのか
  • 認知症になった時、どのような生活を望むのか
  • 葬儀の希望(宗教・規模・予算)
  • お墓の希望

甥・姪への配慮
「甥・姪に介護を頼みたくない」と考えているなら、その意思を明確にし、専門機関や施設入所を希望することを書いておきましょう。

逆に「できれば甥・姪に見守ってもらいたい」と考えているなら、その旨を伝え、遺言書で感謝の気持ちを形にすることが大切です。


6. 任意後見契約の重要性──判断能力低下に備える

特に50代・60代のおひとり様にとって、任意後見契約は最も重要な準備の一つです。

なぜ任意後見契約が重要なのか?

ケース:認知症になったAさん(65歳・おひとり様)
Aさんは元気だった頃、「自分のことは自分でできる」と考えていました。しかし、65歳で認知症を発症。

  • 銀行口座の管理ができなくなった
  • 介護サービスの契約ができなくなった
  • 施設入所の契約ができなくなった
  • 判断能力がないため、後から任意後見契約を結ぶことができない

結局、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらうことに。しかし、成年後見人は家庭裁判所が選ぶため、Aさんが信頼していた人ではない専門家が選ばれました。

任意後見契約があれば:

  • 元気なうちに、自分が信頼できる人を選べる
  • 自分の希望に沿った財産管理をしてもらえる
  • 甥・姪に負担をかけない

任意後見契約の費用

  • 公正証書作成費用:約3〜5万円
  • 任意後見監督人の報酬:月1〜3万円(実際に後見が開始されてから)
  • 任意後見人への報酬:契約内容による(親族なら無報酬の場合も)

7. 遺言書で甥・姪への感謝を形に

甥・姪に遺贈するメリット

もし甥・姪が介護や見守りをしてくれた場合、遺言書で財産を遺贈することで、感謝の気持ちを形にすることができます。

遺言書の文例:
「私の介護をしてくれた姪の○○○○(住所・生年月日)に、私の全財産の3分の1を遺贈する。長年にわたり献身的に支えてくれたことに、心から感謝します。」

遺言書がないとどうなるか?

兄弟姉妹が健在の場合、法定相続では兄弟姉妹が相続人となり、甥・姪は相続人ではありません。

つまり、甥・姪がどんなに献身的に介護しても、遺言書がなければ財産は一切渡らないのです。

遺言書作成の費用

  • 自筆証書遺言:無料(法務局保管制度を利用する場合は3,900円)
  • 公正証書遺言:5〜10万円+公証人手数料

8. 「迷惑をかけたくない」からこそ、今準備する

50代・60代のおひとり様の多くが「甥・姪に迷惑をかけたくない」と考えています。

この気持ちは、とても素晴らしいものです。

しかし、何も準備せずにいると、逆に甥・姪に大きな負担をかけることになります。

準備がない場合の甥・姪の負担

  • 突然、病院や施設から身元引受人として呼び出される
  • 介護休業制度が使えず、仕事との両立に苦しむ
  • 介護費用を立て替えなければならない
  • 死後の手続き(葬儀・納骨・遺品整理・賃貸解約など)を全て担う
  • 相続手続きで戸籍収集などの煩雑な作業を行う

準備があれば

  • 任意後見契約で専門家が財産管理→甥・姪の負担なし
  • 死後事務委任契約で専門家が手続き→甥・姪の負担なし
  • 遺言書で感謝の気持ちを形に→甥・姪も報われる
  • エンディングノートで希望を明確化→甥・姪が迷わない

「迷惑をかけたくない」からこそ、元気なうちに準備する。

これが、本当の優しさではないでしょうか。


9. まとめ:おひとり様の介護問題は社会全体の課題

日本経済新聞の記事が示すように、おひとり様の介護を甥・姪が担う時代が到来しています。

しかし、現行の介護休業制度では甥・姪は対象外という盲点があり、介護する側も介護される側も困難に直面しています。

この問題は、制度改正を待つだけでなく、一人ひとりが「今できること」から始める必要があります。

50代・60代おひとり様が今すぐできること:

  1. 任意後見契約を結ぶ
  2. 死後事務委任契約を結ぶ
  3. 遺言書を作成する
  4. 介護の希望を明確にしておく

50代・60代はまだまだ元気で、「介護なんてまだ先のこと」と思いがちです。でも、いざという時は突然やってきます。

・何から始めたらいいか分からない
・相談できる相手がいない
・自分の場合はどうすればいいの?

そんな時こそ、専門家にご相談ください。市役所での実務経験を活かし、皆さんの不安に寄り添いながら、一つひとつ丁寧にサポートさせていただきます。

おひとり様の介護問題は、もはや個人の問題ではなく、社会全体で考えるべき課題です。一緒に、安心できる未来をつくりましょう。

📰 参考記事:おひとり様の介護、甥・姪も担う 休業制度の対象外など課題も(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD194AF0Z11C25A2000000/