遺言書を書く前に、本当に大切なこと
~遺すのは財産だけではありません~
「遺言書」と聞くと、皆さまはどのようなことを思い浮かべますか。
「財産を誰にどれだけ渡すかを書いておくもの。」
多くの方が、そのように思われるのではないでしょうか。
もちろん、それは間違いではありません。
遺言書には、ご自身の大切な財産を、誰に、どのように遺すかという意思を法的に残す大切な役割があります。
しかし、私は遺言・相続を専門とする行政書士として、遺言書にはもう一つ、とても大切な役割があると考えています。
それは、
「想いを遺すこと」
です。
財産は分けられても、想いは書かなければ伝わりません。
相続が始まると、ご家族はさまざまな手続きを進めることになります。
預貯金の解約。
不動産の名義変更。
年金や保険の手続き。
葬儀や納骨。
そして、遺品整理。
悲しむ間もなく、多くの手続きに追われることになります。
そのような中で、ご家族が何度も口にされる言葉があります。
「どうしてほしかったんだろう。」
「本当は何を望んでいたんだろう。」
財産のことは遺言書に書いてあったとしても、ご本人の気持ちは書かれていない。
すると、ご家族は答えのない問いを抱えながら判断しなければなりません。
「付言事項」という、ご家族への手紙があります。
遺言書には、「付言事項(ふげんじこう)」という欄があります。
これは、法的な効力を持つ財産の分け方とは別に、ご家族への感謝や、ご自身の想いを自由に書くことができる部分です。
例えば、
「今までありがとう。」
「兄弟仲良く助け合ってください。」
「介護をしてくれて本当にありがとう。」
そんな一言でも構いません。
法的な効力はありません。
しかし、その一言が、ご家族の心を救うことがあります。
私は、この付言事項こそが、遺言書が「予防法務」と呼ばれる理由の一つだと考えています。
財産を分けるだけではなく、人の心をつなぎ、争いを防ぐ力を持っているからです。
遺言書を書く前に、「自分の想い」と向き合う時間を。
だからこそ私は、いきなり遺言書を書き始めることはおすすめしていません。
まず必要なのは、
「私は何を大切にして生きてきたのだろう。」
「誰に何を伝えたいのだろう。」
と、ご自身の心と向き合う時間です。
そのために活用していただきたいのが、「ゆいごん白書」です。
ゆいごん白書は、60の質問にチェックを入れながら、ご自身の財産、医療や介護の希望、お墓のこと、大切な人への想いなどを整理することができる終活キットです。
書こうと思うと難しいことでも、質問に答えていくことで、「自分はこう考えていたんだ」と気づかれる方がたくさんいらっしゃいます。
そして、その積み重ねが、ご自身らしい遺言書につながっていきます。
財産を「残す」だけでなく、「活かす」という選択。
近年、遺言書のご相談の中で増えているのが、「遺贈」に関するご相談です。
遺贈とは、遺言書によって、相続人だけでなく、お世話になった方や公益法人、NPO法人などへ財産を贈ることができる制度です。
私は日本赤十字社大阪府支部でのセミナーでも、このお話をさせていただきました。
財産は、家族へ「残す」だけではありません。
社会のために「活かす」という選択もあります。
ご自身が大切にしてきた想いを、未来へつないでいく方法の一つです。
だからこそ、遺言書は「財産を分ける書類」ではなく、「人生の想いを未来へ託す書類」でもあると私は考えています。
遺言書を書く目的は、「争わないため」だけではありません。
「うちは仲がいいから大丈夫。」
そうおっしゃる方も少なくありません。
もちろん、それはとても素晴らしいことです。
でも、遺言書は、家族が仲良くないから作るものではありません。
家族が仲良しだからこそ、最後まで仲良くいてほしい。
その願いを形にするために作るものでもあります。
そして、その想いを一番素直に伝えられるのが、付言事項です。
あなたは、何を遺したいですか。
財産でしょうか。
家でしょうか。
思い出でしょうか。
感謝でしょうか。
私は、皆さまに一度立ち止まって考えていただきたいのです。
「私は、何を遺したいだろう。」
その答えは、人それぞれ違って当然です。
だからこそ、終活には「正解」がありません。
大切なのは、ご自身の想いに気づき、その想いを形にすることです。
次回予告
終活で最も大切なのは、「自分で決められる今」を大切にすることです。
次回は、
「判断できる今だからこそ、自分で決める」
をテーマに、認知症への備え、任意後見、家族信託、そして人生会議(ACP)について、分かりやすくお話しします。
🌸 花笑む終活メッセージ
人生で本当に大切なものは、目に見える財産だけではありません。
「ありがとう。」
「これからも仲良く暮らしてください。」
そんな言葉が、何よりも大きな財産になることがあります。
終活とは、人生を閉じる準備ではありません。
大切な人へ想いをつなぎ、自分らしく生きた証を未来へ届ける準備です。
その一歩を、一緒に考えてみませんか。
行政書士奥村オフィス
行政書士 奥村 多恵子

