終活は、人生をより良く生きる準備。~行政書士奥村多恵子の終活コラム~第3回

終活は、人生をより良く生きる準備。~行政書士奥村多恵子の終活コラム~第3回

 「判断できる今だからこそ、自分で決める」~認知症になる前に考えておきたい、これからのこと~

前回は、遺言書には財産の分け方だけでなく、「想いを遺す」という大切な役割があることをお話ししました。

では、その「想い」は、いつ伝えればよいのでしょうか。

私は終活のお話をするとき、「元気な今だからこそ、できることがあります」とお伝えしています。

「まだ元気だから、終活はもう少し先でいい。」

そう思われる方もいらっしゃるでしょう。

でも、本当は反対なのかもしれません。

元気だからこそ考えられる。自分の意思を伝えられるからこそ選べる。そして、自分で判断できるからこそ、準備できることがあります。

終活には、**「今だから間に合うこと」**があるのです。

もし、自分で決めることが難しくなったら

例えば、将来、認知症などによって判断することが難しくなったとします。

預貯金をどのように管理するのか。自宅をどうするのか。誰に生活を支えてもらいたいのか。どのような介護を受けたいのか。どこで暮らしたいのか。そして、人生の最終段階をどのように過ごしたいのか。

そのときになってからでは、ご本人の意思を十分に確認できないことがあります。すると、ご家族が代わりに考えることになります。

「お母さんだったら、どうしたかったんだろう。」

「これで本当にいいのかな。」

家族だから分かることもあります。でも、家族だからこそ迷うこともあります。

大切な人の人生に関わる決断だからです。

だからこそ私は、「自分で決められることは、自分で決めておく。」

それも、大切な終活の一つだと考えています。

認知症への備えは、「財産を守ること」だけではありません

認知症への備えというと、「預金が動かせなくなったらどうしよう。」「不動産を売却する必要が出てきたら?」など、財産管理を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

もちろん、それも大切な問題です。

しかし、私がもっと大切にしたいのは、「その人が、どのように生きたいのか」ということです。

誰に支えてほしいのか。どこで暮らしたいのか。何を大切にしたいのか。

財産は、その人らしく生きていくために使う大切なものでもあります。

だからこそ、「お金をどうするか」だけではなく、「私は、これからどう生きたいのか。」

そこから考えていただきたいと思っています。

「任意後見」という備えがあります

将来、判断能力が低下したときに備える制度の一つに、任意後見制度があります。

判断能力が十分にあるうちに、「将来、この人に自分を支えてもらいたい」という人を自分で選び、契約しておく制度です。

将来、判断能力が不十分になった場合に、あらかじめ契約で決めておいた人が、本人に代わって財産管理や契約などを行います。

大切なのは「自分で選べる」こと

ここで私が大切だと思うのは、「自分で選べる」ということです。

判断能力が低下した後に家庭裁判所が成年後見人等を選任する法定後見制度とは異なり、任意後見は、判断できる今の自分が、将来を託したい人をあらかじめ選ぶことができます。

これは単なる財産管理の問題だけではありません。

「自分の人生を、誰に託したいのか。」

を考えることでもあるのです。

「家族信託」という選択肢もあります

財産管理については、家族信託という仕組みが選択肢になる場合もあります。

例えば、自分が元気なうちに、「将来、この不動産の管理を子どもに任せたい。」「自分の生活のために、この財産を管理してほしい。」といった希望を契約によって形にしておく方法です。

制度からではなく、希望から考える

ただし、家族信託をすれば、すべての問題が解決するわけではありません。

遺言、任意後見、家族信託には、それぞれ役割があります。そして、その方の家族関係、財産、これからの希望によって、必要な備えも違います。

ですから私は、「どの制度を使うか」から終活を始めないでほしいと思っています。

まず考えるのは、「私は、これからどうしたいのか。」

その希望を実現するために、必要な制度を選んでいけばよいのです。

財産だけではありません。「医療」についても自分で考えておく

もう一つ、元気な今だからこそ考えていただきたいことがあります。

それが、「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」です。

「人生会議」とは

もし大きな病気になったら。もし、自分で意思を伝えることが難しくなったら。

どのような医療やケアを望むのか。どこで過ごしたいのか。自分が大切にしていることは何なのか。そして、自分の代わりに誰に気持ちを伝えてほしいのか。

そんなことを、元気なうちからご家族や大切な人、医療・ケアに関わる方々と話し合っておくことを「人生会議」といいます。

気持ちが変われば、また話せばいい

一度決めたら、ずっと変えてはいけないものではありません。

年齢を重ねれば、考え方が変わるかもしれません。病気を経験すれば、大切にしたいことが変わるかもしれません。家族の状況によっても、気持ちは変わるでしょう。

だから、「今の私は、こう思う。」

それでいいのです。

気持ちが変われば、また話せばいい。

大切なのは、自分の人生について、自分自身が考える機会を持つことなのだと思います。

「子どもに迷惑をかけたくない」の、その先へ

終活のご相談をお受けしていると、とてもよく耳にする言葉があります。

「子どもに迷惑をかけたくないんです。」

そのお気持ちは、とてもよく分かります。

けれど私は、もう一歩先まで考えていただきたいと思っています。

「迷惑をかけないため」だけに終活をするのではなく、「私は、こう生きたい。」と考えるためにも、終活をしてほしいのです。

どこで暮らしたい。誰と過ごしたい。何を大切にしたい。どんな医療や介護を望むのか。大切な財産を、何のために使いたいのか。

そして、最後まで、どんな自分でありたいのか。

それを考えることは、わがままではありません。

自分の人生について自分で考え、自分の意思を伝えること。

私はそれが、「自分自身の尊厳を大切にすること」につながると考えています。

「ゆいごん白書」は、自分自身への質問でもあります

だからこそ、「ゆいごん白書」の60の質問に向き合う時間には意味があります。

財産、医療・介護、お墓など、自分に関わる大切な情報や希望を、一つずつ整理していきます。

そしてチェックをしていく中で、「これは考えたことがなかった。」「家族に伝えておいた方がいいな。」「元気なうちに相談しておこう。」そんなことが見えてきます。

ゆいごん白書は、遺言書そのものではありません。

これからの人生について、自分自身に問いかけるための一冊でもあるのです。

「いつか」ではなく、「今」だからできる終活を

終活という言葉には、どうしても「人生の最期」というイメージがあります。

けれど、私は終活についてお話しすればするほど、むしろ反対なのではないかと感じています。

終活で考えているのは、「これから、どう生きるか。」だからです。

元気だから考えられる。判断できるから選べる。言葉にできるから、大切な人へ伝えられる。

そして、必要であれば制度を使って、その想いを形にすることもできます。

だからこそ、「まだ早い」ではなく、「今だからできる」。

そんなふうに、終活を捉えていただけたらと思っています。

次回予告

次回は、第4回「子どもに迷惑をかけたくない。その想いを形にする終活」をお届けします。

「自分が亡くなった後、家族はいったい何をしなければならないの?」

葬儀、役所への届出、預貯金、相続、不動産、お墓、遺品整理……。

残されたご家族には、想像以上に多くのことが待っています。

では、元気なうちに何を準備しておけば、ご家族の負担を少しでも軽くすることができるのでしょうか。

「迷惑をかけたくない」という優しい想いを、具体的な準備へ変える方法をお伝えします。

🌸 花笑む終活メッセージ

自分の人生を、自分で決める。

それは、特別なことではありません。

何を大切にして、誰と過ごし、どのように生きていきたいのか。

元気な今だからこそ、考えられることがあります。

終活とは、人生を閉じる準備ではありません。

これからの人生を、自分らしく生きるための準備です。

今日、自分の未来について考えることが、明日の自分と、大切な人の安心につながりますように。

行政書士奥村オフィス
行政書士 奥村 多恵子