2026年1月27日、法制審議会が成年後見制度の抜本的な見直しに向けた要綱案を取りまとめました。現行制度の導入から約25年、初めての大規模改正となるこのニュースは、認知症対策や相続対策を考えている多くの方にとって、見逃せない重要な転換点です。
本記事では、遺言相続専門の行政書士として、今回の改正内容を分かりやすく解説し、後見制度を検討している方が今すぐ知っておくべき情報をお届けします。
目次
1. 成年後見制度改正の背景:なぜ今、見直しが必要なのか
深刻化する「利用率の低さ」
日本の成年後見制度は2000年にスタートしましたが、約25年経った今も利用率は著しく低い状態が続いています。2025年の時点で、認知症高齢者が600万人を超えると推計される中、成年後見制度の利用者は約24万人程度。わずか4%という数字が、制度の使いづらさを物語っています。
現場から上がる「使いづらい」の声
私が日々ご相談を受ける中でも、「成年後見制度は大げさすぎる」「一度始めたらやめられないのが怖い」「費用が継続的にかかるのが負担」といった声をいただくこともありました。
特に問題視されてきたのが、以下の3点です:
①終身制の硬直性
一度制度を利用すると、本人が亡くなるまで続く「原則終身」のルール。軽度の認知症の方や、一時的な支援だけで十分な方にとっては、過剰な介入となっていました。
②包括的すぎる権限
「後見」類型では、本人の行為能力がほぼ全面的に制限され、日常的な買い物まで後見人の同意が必要になるケースも。本人の自己決定権との兼ね合いが課題でした。
③費用負担の重さ
専門職後見人(弁護士・司法書士等)がつくと、月額2〜6万円の報酬が終身にわたって発生。経済的負担から利用を躊躇する家族が多数いました。
こうした課題を解決するため、法制審議会は2024年から本格的な検討を開始。そして2026年1月27日、ついに改正要綱案が取りまとめられたのです。
2. 改正の5つの重要ポイント:何がどう変わるのか
今回の改正要綱案の核心部分を、5つのポイントに整理してご説明します。
ポイント①:途中終了が可能に
最大の変更点は、家庭裁判所の判断により制度利用を途中で終了できる規定の新設です。従来の「原則終身」という縛りから解放され、必要な期間だけ利用できる柔軟な制度へと生まれ変わります。
ポイント②:類型の一本化
現行の「後見」「保佐」「補助」という3類型を廃止し、「補助」に一本化されます。これにより、本人の判断能力のレベルで機械的に類型を分けるのではなく、実際のニーズに応じた支援設計が可能になります。
ポイント③:支援範囲の限定化
新制度では、遺産分割や不動産処分など、必要な行為に限定して補助人の権限を設定できます。「この契約だけ手伝ってほしい」というピンポイントのニーズに対応可能です。
ポイント④:本人の自己決定権の尊重
支援内容を限定することで、本人が自分で判断できる領域を最大限残します。「できることは自分で、難しいことだけサポート」という、本人の尊厳を守る設計です。
ポイント⑤:2026年通常国会への改正案提出予定
法務省は衆院選後の国会に民法改正案を提出する方針。順調に進めば、2027年〜2028年頃に新制度がスタートする見込みです。
3. 「途中終了」が可能に!従来の終身制との違い
従来の終身制の問題点
これまでの成年後見制度では、一度申立てを行い後見人等が選任されると、本人の判断能力が回復しない限り、制度を終了することはできませんでした。
例えば、こんなケースがありました:
ケース①:相続手続きだけのつもりが…
父親が軽度の認知症で、相続の遺産分割協議のために成年後見を申し立てたAさん。遺産分割が終わった後も後見は続き、月額3万円の報酬を10年以上払い続けることに。
ケース②:判断能力が改善しても終了できない
脳梗塞で一時的に判断能力が低下したBさん。リハビリで回復したものの、医師の診断書では「完全回復」と認められず、後見が継続。
こうした硬直的な運用が、制度への不信感を生んでいました。
新制度では「必要な期間だけ」利用できる
改正後は、家庭裁判所が「支援の必要性がなくなった」と判断すれば、終了できるようになります。判断能力の回復を待たずとも、例えば:
- 特定の法律行為(遺産分割、不動産売却等)が完了した
- 家族による見守り体制が整った
- 他の福祉サービスで対応可能になった
といった事情があれば、終了を検討できるのです。
実務上の注意点
ただし、途中終了後の「空白期間」にどう対応するかが課題です。せっかく後見が終了しても、その後に認知症が進行した場合、再度申立てが必要になる可能性もあります。
私たち専門家としては、任意後見契約や家族信託との併用など、継続的な見守り体制をセットで提案していくことが重要になると考えています。
4. 3類型から1類型へ:「補助」一本化で何が変わる?
現行制度の3類型とは
現在の成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて3つに分かれています:
①後見(判断能力がほとんどない)
- 日常的な買い物も困難なレベル
- 後見人が包括的に財産管理・身上監護を行う
- 本人の行為は原則取り消し可能
②保佐(判断能力が著しく不十分)
- 日常的な買い物はできるが、重要な契約は難しいレベル
- 重要な財産行為に保佐人の同意が必要
- 同意なき行為は取り消し可能
③補助(判断能力が不十分)
- 重要な契約に不安があるレベル
- 家庭裁判所が定めた特定の行為のみ、補助人が同意・代理
- 本人の自己決定権を最大限尊重
なぜ「補助」に一本化するのか
改正案では、最も柔軟性の高い「補助」に一本化されます。理由は明確です:
- 本人の状態は流動的で、3つの類型に機械的に分けるのは困難
- 「判断能力」ではなく「実際のニーズ」に焦点を当てるべき
- 過剰な支援を避け、本人の自己決定権を守る
新しい「補助」では、家庭裁判所が個別のケースに応じて、「この契約だけ代理権を与える」「この行為だけ同意権を設定する」といった細かな調整が可能になります。
実例で見る新制度のメリット
【事例】一人暮らしの母親の不動産売却
母親(78歳)は軽度の認知症。日常生活は問題なくこなせるが、実家の不動産売却という重要な契約は心配。
従来の制度
→「保佐」または「後見」を申し立て→包括的な支援が開始→売却後も継続
新制度
→「不動産売却契約に関する代理権のみ」を補助人に付与→売却完了後、終了を検討可能
このように、本当に必要な部分だけをサポートできるようになるのです。
5. 後見を考えている方への実務的アドバイス
今すぐ申立てを検討している方へ
「親の認知症が進んでいて、すぐに後見が必要」という方は、現行制度での申立ても選択肢です。ただし、以下の点にご注意ください:
①終身制のリスクを理解する
現時点で申し立てた場合、改正法施行までは従来のルールが適用されます。長期的な費用負担を覚悟する必要があります。
②代替手段も検討する
- 任意後見契約:本人がまだ契約できる状態なら、こちらも有効
- 家族信託:不動産や金融資産の管理なら、信託で対応可能
- 日常生活自立支援事業:福祉サービスでカバーできる場合も
③専門家に相談する
制度選択は複雑です。行政書士、司法書士、弁護士などの専門家に、あなたの状況に合った最適なプランを提案してもらいましょう。
「将来に備えて情報収集中」という方へ
まだ切迫した状況ではないが、将来のために知っておきたい—そんな方には、以下の準備をお勧めします:
①任意後見契約の検討
元気なうちに、信頼できる人と任意後見契約を結んでおけば、自分の意思を反映した支援が受けられます。
②家族信託の活用
不動産や金融資産を家族に信託しておけば、認知症になっても柔軟な財産管理が可能です。
③エンディングノートの作成
「誰に何を任せたいか」「どんな生活を送りたいか」を書き残しておくことも大切です。
④定期的な見直し
法改正の動向を見ながら、2〜3年ごとに対策を見直しましょう。
6. 任意後見・家族信託との比較:どの制度を選ぶべきか
後見を考える際、よく比較されるのが「任意後見」と「家族信託」です。それぞれの特徴を整理してみましょう。
成年後見制度(法定後見)
メリット
- 本人の判断能力が既に低下していても利用可能
- 家庭裁判所の監督があり、不正防止効果が高い
- 身上監護(医療・介護契約等)もカバー
デメリット
- 申立てから選任まで数ヶ月かかる
- 専門職後見人の場合、報酬が継続的に発生
- 本人の意思を反映しにくい
向いている人
すでに認知症が進行しており、包括的な支援が必要な方
任意後見制度
メリット
- 元気なうちに、自分で後見人を選べる
- 契約内容を自由に設計できる
- 本人の意思を反映しやすい
デメリット
- 本人に契約能力がないと利用不可
- 任意後見監督人の報酬が発生(月1〜3万円程度)
- 発効までのタイムラグがある
向いている人
まだ判断能力がしっかりしており、将来に備えたい方
家族信託
メリット
- 認知症になっても不動産売却等が可能
- 後見人報酬のような継続費用がかからない
- 柔軟な財産承継設計ができる
デメリット
- 身上監護(医療・介護契約等)はカバーしない
- 初期費用(専門家報酬・登記費用等)が比較的高額
- まだ新しい制度で、対応できる専門家が限られる
向いている人
不動産や金融資産の管理・承継を重視する方
併用という選択肢も
実は、これらの制度は併用も可能です。例えば:
- 家族信託+任意後見:財産管理は信託で、身上監護は任意後見で
- 任意後見+遺言:生前は任意後見で、死後は遺言でスムーズに承継
あなたとご家族の状況に応じて、最適な組み合わせを専門家と一緒に考えていきましょう。
7. まとめ:改正を見据えた今後の対策
2026年1月27日に取りまとめられた成年後見制度の改正要綱案は、「終身制廃止」「類型の一本化」「支援範囲の限定化」という3本柱で、制度を大きく柔軟化させるものです。
今後のスケジュール
- 2026年2月中旬:法制審総会で正式答申
- 2026年通常国会(衆院選後):民法改正案提出
- 2027〜2028年頃:改正法施行(見込み)
後見を考えている方が今すべきこと
①情報収集を続ける
改正法の動向を注視しつつ、最新情報をキャッチアップしましょう。
②専門家に相談する
あなたの状況に合った制度選択は、専門家のアドバイスが不可欠です。
③家族で話し合う
「もしものとき、誰に何を任せるか」を、元気なうちに家族で共有しておきましょう。
④複数の選択肢を比較検討する
成年後見だけでなく、任意後見・家族信託・遺言など、総合的な視点で備えましょう。
最後に
認知症対策・相続対策は、「いつか考えよう」と先延ばしにしがちです。しかし、判断能力が低下してからでは選択肢が限られてしまいます。
今回の成年後見制度改正は、より多くの方が安心して制度を利用できるようにするための大きな一歩です。この機会に、あなたとご家族の未来について、一緒に考えてみませんか?
遺言相続専門の行政書士として、皆さまお一人おひとりに寄り添ったサポートをさせていただきます。ご相談はお気軽にどうぞ。
【参考記事】
朝日新聞「成年後見制度『やめられない』→終了可能に その後の支援体制に課題」(2026年1月27日)
https://www.asahi.com/articles/ASV1W2VC6V1WUTIL02WM.html
時事通信「支援対象を限定、途中終了も 成年後見、法改正へ要綱案―法制審」(2026年1月27日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026012701337&g=soc

